TEN-C(テンシー)は次世代のヴィンテージになりえるか

多くのブランドが割拠する現代ですが、10年、20年と残るブランドは非常に稀です。
また、後年「ヴィンテージ」として評価されるブランド、というのも一握りです。
ここでいう「ヴィンテージ」はマスターピースと言い換えることもできます。
いつの時代もただしく評価されるもの、ということですね。
例えるならデニムでいうリーバイス、トレンチコートでいうバーバリーといったそれぞれのガーメント(衣服)の歴史をつくったブランドたちです。
現代のブランドでこれらになりうるもの、として僕はTEN-Cがそれになりうるのではないか、と考えます。
このコラムではヴィンテージになりうる要素はなにか、そしてTEN-Cがその要素をどのように満たしているかに迫りたいと思います。
と、その前にTEN-C(テンシー)の説明を軽くしておきましょう。
名前の由来は“The Emperor’s New Clothes”。
アンデルセン童話の「はだかの王様」の原題がブランド名になっています。(まあ実は諸説あるのですが)
Stone Island(ストーンアイランド)のチーフデザイナーを12年間務めたPaul Harvey(ポールハーヴェイ)と、CP Company(シーピーカンパニー)のデザイナーであったAlessandro Pungetti(アレッサンドロプンゲッティ)がタッグを組み立ち上がったブランド。
「デザインだけの、機能だけの服の時代は終わった。一生着られる服を作る」の思いを掲げ、構想3年、製作に2年もの時間を費やし高機能かつミリタリーを基調とした洗練されたデザインのアウターを展開しています。
当初は‘One fabric, four colours, seven jackets, forever’ (1つのファブリック、4つの色、7つのジャケット)を掲げていましたが現在は素材も3L GORE-TEXなど展開し、カラーも12色(確か)、モデル数も廃盤になったものを含めると20種類くらいになっています。
ブランドタグらしきタグはなく、前右身頃裏につけられたモデル名などが書かれたタグに「TEN C」の表記があるだけです。
ここにはシーリングスタンプのような赤いスタンプが縫いつけられています。
ちなみにこのスタンプ、初期のものは菊の紋があしらわれていたのですがあるときからなにも書かれていないスタンプへと変更されていました。
ファッション、かつガーメント
ヴィンテージとして遺る要素として、
・経年変化による違った表情をあわせもっていること
・役割をもった服であること
が挙げられるのではないかと考えます。
そして現代の技術でしかできない生地や製法が加わることで次世代のヴィンテージへと昇華するのではないでしょうか。
ここからは次世代のヴィンテージたらしめる要素をひとつずつ紐解いていきましょう。
TEN-C(テンシー)ができるまで
ヴィンテージ要素に迫る前に、もう少しTEN-Cの歴史を知っておく必要があります。
TEN-Cにたどり着くまでに押さえておかなければならないMassimo Osti(マッシモオスティ)という人物、そしてその人物が手がけたSTONE ISLAND(ストーンアイランド)、CP COMPANY(CPカンパニー)についてご紹介します。
Massimo Osti(マッシモオスティ)からの系譜
Massimo Osti(マッシモオスティ)は現在のカジュアルウェアの元を作ったともいわれるほどの人です。
軍モノのヴィンテージを徹底的に掘り下げて研究し、その機能性や素材感をいち早くカジュアルウェアに落とし込んだ人物で、ミリタリーモチーフやワークモチーフのディテールの波及は彼の研究によるところが大きいとされています。
今でこそヴィンテージのディテールを落とし込む、といった考え方は一般的になってはいますが、まだその考え方がなかった1970年代ごろからそれを行っていたのが彼です。
また、製品染めを世界で初めて発表したのもこの人。
現在の服作りにも多大な影響を与えている彼ですが、TEN-Cのポールハーヴェイはその哲学をもっとも濃く受け継いだ人物なのです。
マッシモオスティが築き、ポールハーヴェイが受け継いだその哲学を2つのブランドから紐解いていきましょう。
CP COMPANY (CPカンパニー)
1975年ごろ設立。
イタリア軍の放出品に興味を持ったマッシモ・オスティがこれらの研究をはじめたところからスタートします。
当時としては革命的な着眼点で、現代のワーク、ミリタリーテイストの基盤になっていきます。
また、とじはアメリカファーストの時代だったのにもかかわらずイタリアでコツコツと先進的な服をつくっていた、というところも特筆すべきでしょう。
CP COMPANY自体もたくさん書きたいことがあるのですがとんでもなく長くなりそうなので省略。
とにかく、CP COMPANYをきっかけにマッシモオスティの研究・ものづくりはスタートします。
STONE ISLAND(ストーンアイランド)
CP COMPANY設立から数年後の1982年(おそらく)、STONE ISLANDがスタートします。こちらもマッシモオスティが手がけたブランド。
CP COMPANYとは違う角度から素材の研究をおこないました。
製品を洗いこむことで柔らかさと生地にアタリをつける加工などもマッシモがはじめておこなったとされています。
Paul Harnden(ポールハーデン)やC DIEM(カルペディエム)のような、いわゆるアルチザン然としたブランドが出てくる前にエイジングを加える手法をおこなっていたのですね。
このSTONE ISLANDのチーフデザイナーをマッシモに代わり引き継いだのがポールハーヴェイです。
ようやく出てきました、長かった。
CP COMPANY、そしてSTONE ISLANDでの研究とものづくりを側で見てきたポールハーヴェイはそのDNAを受け継ぎ、ブランドを率いていきます。
そして彼はそれから10年後、同じくデザイナーのアレッサンドロ・プンジェッティと共にデザイン事務所を立ち上げ多くのブランドにデザインを提供したりもしています。
2008年でストーンアイランドのデザイナーは退き、現在はCPカンパニーのデザインをメインに手掛けていますが、こうして見ると彼は機能性とヴィンテージの研究のもっとも濃い部分を人生の大半をかけて触れてきたことでしょう。
TEN-C(テンシー)の生地
TEN-Cの最大の特徴といえばユニークな生地。
寒さ、風、雨を完全にシャットアウトしつつも通気性がある特殊な素材。
化学繊維でありながら経年変化を起こし、着込むほどに柔らかく、シームにはパッカリングを起こす他に類のない生地です。
この生地はもともとポールハーヴェイがストーンアイランドにいたときに日本の生地メーカー小松精練と共同で開発を行ったとされていて、この生地、はた目には信じられませんがこの生地はジャージー(編み物)です。
小松精練では正式名称「ポリエステルナイロンジャージー:M9307SY」、TEN-C側では「OJJ」と呼ばれ、イタリア陸軍のウェアにも採用されています。
ちなみにOJJとは「Original Japanese Jersey」の略だそうです。
超高密度に編み上げたポリエステルナイロンの生地を縮絨したもので、表面にはコーティング処理をすることでスウェード、もしくはモールスキンのような毛羽立った生地感になります。
高密度ベンタイルミリクロスは高い通気性と防水性を兼ね備えており、さらに水洗いも可能な超高機能素材ですが、経年変化を起こすことでファッション性をもたらしています。
この生地のすごいところ、それは染めにあります。
この生地は先染め(糸の時点で染める手法)ではなく製品染めで行われています。
ですがナイロン・ポリエステルの混紡生地を製品染めできる工場は少なく、この生地はイタリアで唯一染めが可能な工場で加工されています。
高温でないと色が入らないので130~140度の高温で圧力をかけて染め上げますが、生地がものすごく縮みます。
逆にいえばそれがより高密度な生地を実現しているわけですが、あらかじめどれだけ縮むか計算して染めを行わないといけないのでかなり繊細な工程であることは間違いありません。
これだけの特殊な工程を鑑みると、TEN-Cの値段の高さにも納得してしまいます。
ちなみに、OJJの3L(3レイヤード)というのもあるようです。
3層構造のOJJで、同じく小松精練のコンブ生地がボンディングされているようです。
ちなみにオーダー会などで注文可能な12色のカラーバリエーションはこんな感じ。
TAN(ベージュ) / TAUPE(トープ) / LT.BROWN(ライトブラウン) / DK.OLIVE(ダークオリーブ) / RED(レッド) / OLIVE(オリーブ) / CHARCOAL(チャコール) / NAVY(ネイビー) / STORM GRAY(ストームグレー) / DK.NAVY(ダークオリーブ) / BLACK(ブラック)
といいつつ、カモ柄が出ていたりと本当のところはよくわかりません。
もしかしたら12色、というのも古い情報なのかもしれないですね。
詳しい方いらっしゃいましたら教えていただけると嬉しいです。
TEN-C(テンシー)のモデル解説
TEN-Cの各モデルは基本的には20世紀のミリタリージャケットをデザインソースにしています。定番のものから、現在は廃盤になったものまでさまざまですががっつりご紹介しましょう。
Anorak(アノラック)

もっとも定番のモデル。
1960年代のカナディアンアノラックをベースにリデザインしています。
背面にはカナダのシューティングジャケットのディテールを取り入れて大容量のゲームポケットを配備。
内側もマガジンポケットがついていてカバンすら必要ないほどの容量を確保しています。
オリジナルのアノラックは、はじめの頃はアザラシの皮やカリブーから作られていましたが、1950年代からさまざまな軽い素材で改良が加えられました。
このアノラックはそういう意味でもアップデートされ到達したひとつの答えなのかもしれないですね。
機能的なフロントのジップ仕様、首回りには遮風性を高めるチンストラップもついていて、一番人気のモデルな理由がわかる気がします。
Tempest Anorak(テンペストアノラック)
シルエットはアノラックとほとんど同じ、ですが仕様がいろいろ違います。
比翼ウエストにはマチたっぷりの大きなフラップポケットが配され
Parka(パーカ)

ポールハーヴェイがいちばん最初に構想したモデル。
1951年の朝鮮戦争でアメリカ軍が採用したM-51がモデルになっています。いわゆるモッズコートですね。
襟には補強ステッチが両面に細かく施されていたり、ワイヤーが入っていて形を自由に作れたりするところも元ネタに準拠しています。
フードはドイツ軍のミリタリージャケットから着想を得て少し小さめに。
こちらもAnorakに並ぶ定番モデルです。
Cyclone Parka(サイクロンパーカ)

1960年代後期のドイツのスノーケルパーカから着想を得たモデル。
元ネタはラグランスリーブですがセットインスリーブでとることで都会的な雰囲気になっています。
Parkaとよく似ていますが、Aラインは少し抑えめですっきりとした印象。
フードが一体型となったディテールはAnorakぽくもあります。
先ほどご紹介したTempest Anorakと同じようにフラップポケットが左側のみについています。
Rain Parka(レインパーカ)

ECWCS(エクワックス)をモチーフにしたモデル。
2014年に新作として発売されましたが翌年2015年には廃盤になってしまった少しマイナーなモデルです。
Short Parka(ショートパーカ)

2018年秋冬コレクションに新型として登場。その名の通りParkaをショート丈にしたようなモデルです。
Ducktail Parka(ダックテイルパーカ)
2019年秋冬コレクションに新型として登場。
1つボタンのチンストラップ、左胸の横向きのフラップポケットとディテールが効いたモデル。
前裾はボックス、後ろ裾がゆるやかなカーブとメリハリのあるシルエットも特徴です。
大きめ深めのフードもいい感じ。
Flight Jacket(フライトジャケット)
MA-1を元ネタにしたモデル。
とにかくショート丈なので1つか2つ上のサイズでないと重ね着に支障をきたしそうです。
こちらも現在は廃盤なはず。
M-65

いわゆるフィールドジャケット。
4つポケットで大容量なつくりですが良くも悪くもミリタリー感が強いモデルです。
後述するSmock Snow(スモックスノウ)と近いモデルですね。
Smock Snow(スモックスノウ)
先述のM-65と同じく4つポケットの仕様。
ですが実は細部はいろいろ異なる点が。大きく違うのはベルトループとフードがあること。
初期モデルは最初ベルトがありましたが、後期モデルではベルトがなくなったようです。
スナップボタンではなく通常のボタンとボタンホールの仕様。袖もボタン仕様になっています。
Car coat(カーコート)

シンプルなステンカラーコート。
スーツの上に合うモデルです。
シルエットが少しストレートぎみなので綺麗めな雰囲気が好きな方におすすめ。
Rain Coat(レインコート)
ベルトつきの3ボタン仕様のチェスターコート。こちらもカーコートと同様スーツにおすすめ、ですがおそらくもう廃盤になっているかと思います。
Trench(トレンチ)
廃盤モデル。
2014年に生産終了してしまった希少なモデルです。
僕はこれを一番愛用しています。はじめに作られた7型のうちのひとつだったと思います。
フォーマルなシーンにもカジュアルなシーンにも対応がしやすく、ポールハーデンなどAラインシルエットの服が多い僕の私服にも蹴回し(けまわし)たっぷりでストレスなく着用できます。
Pea Coat(ピーコート)
丸い襟で柔らかい印象のピーコート。
写真は後期タイプでボタンの数は8個のものになります。(初期のものは10個のボタンがついていたようです)
ラペルの形も変更が加えられており、後期はトレンチコートのような大きな襟になっております。
Deck Parka(デックパーカ)

Navy(ネイビー)
Wind Shirt(ウインドシャツ)
Dress Jacket(ドレスジャケット)

M93のミリタリージャケットをモチーフにしたモデル。
写真だとライニングが軍モノのダウンライナーがついているように見えますね。
Canon Jacket(カノンジャケット)
タウンユースに適したデザイン。
2019年秋冬からOJJとダウンライナーが一体型のモデルになり、より街着として使いやすく進化を遂げました。
Alpen Jacket(アルペンジャケット)
2018年秋冬コレクションに新型として登場。
マチの大きくとられたポケットとエルボーパッチが特徴的なジャケットですね。
Drill Jacket(ドリルジャケット)

珍しいテーラードジャケット型。
現在は廃盤です。
胸とチェストの大きめのフラップポケットが特徴ですね。
Hunter(ハンター)
こちらも廃盤。
アローポケットだったり大ぶりな四つポケットだったり脇下の可動を考慮したパターンニングだったり、ハンティングジャケットを彷彿とさせるディテールが満載のモデルです。
Arctic Down Parka(アークティックダウンパーカ)
1960年代に採用されていたN3-AやN3-Bといった極寒地用フライトジャケットからインスピレーションを得たモデル。
戦闘機のような狭いコックピットに乗るパイロットではなく、輸送機などのパイロット向けのジャケットを元ネタにしているのでフードやポケット、ラグランスリーブの仕様はN3-AやN3-Bのディテールを踏襲。
生地はOJJではなく撥水性の高いナイロン素材のマイクロファイバーシェルを使用しています。
刺繍で耐久性をアップさせたフック式のフラップもポイントです。
TEN-C(テンシー)のカスタムについて
TEN-Cのカスタムフードやライニングは1950年代のアメリカ軍のものがもとになっています。TEN-Cがただのアウターウェアブランドではないのはあらゆる気候、環境に対応できるカスタマイズ性によるところが大きいと思います。
いくつかご紹介しましょう。
Shearing Liner(シェアリングライナー)
ボディにムートンをあしらったライニング。ライニングでありながら単体でも着用できるような縫製処理になっています。
TEN-Cのライニングの特徴として袖までライニングがあることが挙げられます。
軍モノからのインスパイアなので袖部分にもボタンホールがありシェル側の袖裏のボタンと留めることで中でぐちゃぐちゃにならないつくりになっています。
ちなみにフードなしのモデルもあります。
Down Liner(ダウンライナー)

タウンユースであればダウンライナーで充分なスペックです。
かなり薄手ながら充分な保温機能をもち、シェルの中に着ていても外見のシルエットを悪くすることもありません。
こちらもフードタイプがありますがモデルによってはダウンフードが襟から出るのがしっくりこないものもあるのでこの辺は好みでいいかと思います。
まとめ
TEN-Cの次世代のヴィンテージたりえる魅力が伝われば幸いです。
D’arteでもTEN-Cの商品があるのでぜひ一度見てみてください。
このブランドコラムで書ききれなかったアイテムごとの解説も加えています。
TEN-C(テンシー)のお買取について
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