ARCHIVIO(アルキビオ)の衣服にはノスタルジー(郷愁)を感じます。実際に体験したことはないけれどどこか懐かしく、あたたかい。人間が本能的に持つ懐古的なイメージをそのまま服にしたような世界観を持っています。
では、なぜARCHIVIOの服はノスタルジーを感じるのか。
なにがARCHIVIOの服をノスタルジーたらしめているのか。感覚的な部分が大きいテーマですがなるべく言語化してみましたのでぜひ一緒にノスタルジーの正体を確かめにいきましょう。
ARCHIVIO J.M.Ribot (アルキビオ J.M.リボット)
ARCHIVIOがブランドとしてスタートしたのは2016年から。
意外とスタートしてからまだ10シーズンも経っていないんですね。
デザイナーはKarim Fares(カリムファリス)氏。
当初から一貫しているのは絵画や古い書物の世界から飛び出してきたようなノスタルジックな世界観。
ルックの写真も背景や小道具に至るまで世界観が一貫しています。
ブランド創設当初は取り扱いショップですら商品画像を掲載することはNGだったというくらい、ブランドイメージの作り込みに徹底していました。
また通販取り扱いができないことや、価格もネット上では公開されないことから知名度のあるブランドながら一種の秘匿性をもったブランドとして確立しています。
ARCHIVIO(アルキビオ)のラインについて
ノスタルジーの正体に迫る前に、ARCHIVIO(アルキビオ)の2種類あるラインについてご紹介していきましょう。
ARCHIVIO J.M.Ribot (アルキビオ J.M.リボット)
アンティークの生地とボタンで作られるライン。
いくつかの基本的なモデルをベースにシーズンによって生地を替えて展開することが多いです。もちろん新作がリリースされたり、まれにディテールの変更があったりもします。
ベースのデザインが過去の衣服から引用されている点、定番のモデルがある程度決まっているという点はPaul Harnden(ポールハーデン)などに通じるところがあります。
日本でよく見られるのはこちらのラインが多いこともあり、ブランド自体を「リボット」と呼ぶ人も少なくないですね。
ARCHIVIO RIforma COLLCTION(アルキビオ リフォルマコレクション
20世紀初頭の衣服の一部を組み合わせてアーティザナル(職人的)な技術で再構築したライン。
基本的に一点物です。
アンティークの衣服は生地やステッチが経年変化で脆く破れやすくなっていますが、手作業で慎重に解体しそれを別のアイテムへと再構築しています。
このライン、俗っぽく言えば要はリメイクラインなのですが不思議なことにまったく陳腐さを感じさせません。
こちらのコートを例にとってみましょう。
元のアイテムは20世紀初頭のヘビーウェイトブラックウールパンツとコットンシャツ。
前身は解体再構築を感じさせないシンプルなツラ。
強いて言うなら裾付近のポケット?のようなパーツと、生地を継いだと思われる斜めに走るシーム(縫い目)が元のパンツを思い起こさせるでしょうか。
裏地はこんな感じ。
まさかのコットンシャツをそのまま裏地に使用しています。
ただ、これ解体再構築と言われないとこういうデザインを1から作ったのかと錯覚してしまいます。
おそらくこのコートの基本的なパターンはこのシャツに準拠させているんでしょうね。
ピースごとの組み合わせ方のセンスが本当に素晴らしいです。
後身も一見シンプル。
ですがベント(背中の切れ込み)部分に注目です。
パンツの前側をそのまま使用しています。
ベントにパンツのフライをもってくるという発想ももちろんすごいのですが、全体を見たときにこのフライのベントがちゃんとかっこいい雰囲気を作りだすフックになっているのが素晴らしいです。
短めのベントがクラシック感、良いどんくささを演出していますね。
パンツはタグもそのまま残してあるようです。
このパンツ自体も手間と時間をかけて作られたものですし、リスペクトの意味もあるのかもしれません。
直しの跡もそのまま使われています。コートの後ろ身頃上部、もとのパンツでいうと裾部分でしょうか。
パーツのボタンもアンティークのもの。
身頃がディテール満載&クラフトマン要素強めな分、袖は引き算されすっきりとした印象です。
僕自身も2019年にロンドンに行った際にいくつかのショップでRIforma COLLECTIONの実物を見ましたが博物館の展示品を見ているようでした。
ウィンドウショッピングのように流し見するのはもったいない、けれど全部見ているとぜんぜん時間が足りない…といったもどかしさあたりも博物館に近いものがありました。
ARCHIVIO J.M.Ribot (アルキビオ J.M.リボット)のノスタルジー感の理由
ここからはテーマであるノスタルジー感の正体に迫っていきましょう。
大きな要素として大量生産でないこと(手仕事であること)と現代服にはないディテール(要素)があると思います。
ひとつずつ見ていきましょう。
ARCHIVIO J.M.Ribot (アルキビオ J.M.リボット)の手仕事
基本的な縫製は現代の高性能なミシンは使っていません。
使われている縫製をみても、ロックミシンのような現代的なステッチングは見られません。
昔ながらの製法で作る、といってしまえば少しありきたりな表現ですが時間も手間もかかる作り方が服そのものの雰囲気に大きく影響しているのは間違いないでしょう。
singer社のこんな感じのミシンとかを使っていたりするのでしょうか。
また、ARCHIVIO(アルキビオ)の衣服のボタンホールは基本的に手縫いで作られています。
ボタンホールの手縫いは僕もしたことがあるのですが下手くそなこともありひとつ15分以上かかりました。
機械だと一瞬ですが手縫いで仕上げることでノスタルジー感を構成するひとつの「デザイン」の役割も果たしています。
現代服にはないディテール(要素)
素材使い
生地はARCHIVIO(アルキビオ)の世界観を作り出す重要なピースです。
すべてではないですが基本的にアイテムのどこかしらにはアンティーク素材が使われています。
使われる生地はヨーロッパの古くて珍しいものが多く、タグには生地の年代の説明書きが添えられます。
また、裏地に使われた生地がそのシーズンのシャツにも使われることも特徴の一つ。ストライプ生地が使われることが多い印象です。
そのほかブラッドウッドで後染めを施したコットンジャージー生地などもあります。
個人的には2018年春夏に出ていたベロア素材が好みでした。
パターンメイキング
ARCHIVIOのディテールを語る上で、パターンについても触れておかなければなりません。
基本的にはトップス、ジャケットはAラインを基調としたシルエットです。
Aラインシルエットの正体は肩傾斜が急(すごくなで肩)、かつ胸のテンション位置が高め(ボタンを留めたとき胸が一番負荷がかかる)。肩幅は狭めで脇下からは少しゆったりめな生地量。
ジャケットという、アイテム自体は現代と同じものを着ているのに雰囲気が違うようにみえるのは構造の違いからくるものです。
カバーオールなどは袖後ろに十分なゆとりをとってあり、1930年代のカバーオールのような袖つけになっています。
野暮ったさが現代服にはないそれですね。
ただ、後述しますが単に昔のパターンメイキングを踏襲しているというだけではありません。
これについてはノスタルジーの再構成という項でご紹介いたします。
パーツ
これらは現代の量産されたボタンとは違って個体差が激しいものが多く、状態によって色味も異なります。
ARCHIVIOはこれらをサイズも異なるものを使用しているのでよりユニーク(一点もの)感が強く感じるのでしょう。
ボタンの大きさが違うということは必然的にボタンホールの大きさも変わってきます。
ボタンに合わせたサイズのボタンホールを手仕事で作っているのですから現代の大量生産では作れないのも頷けます。
ノスタルジーの再構成
さて、ここまでノスタルジーの構成要素について見てきましたが、ARCHIVIO(アルキビオ)の魅力は単にノスタルジーな世界観を作り上げている、ということにとどまりません。
過去の歴史的なデザイン(意匠)を汲んだ上で、再解釈、再構成しているところが多くのファンを持つ理由ではないでしょうか。
要はそっくりそのまま昔の衣服を作っているわけではない、ということです。
具体的に例をあげると、例えばパターンについて。
先ほどパターンはAラインを基調としたシルエットを作っているといいましたがそれだけではなく、袖などは立体裁断のような三次元的なパターンになっています。
パンツなども同様に、人が履いていない状態でも筒状になるようなアナトミカルなパターンメイキングになっていて、現代的な構造とノスタルジックな雰囲気が共存した絶妙なバランスの上に成り立っている衣服だということがわかります。
さらにポケットやステッチなどのディテールをとってみても再構成の要素を見ることができます。
ここで注目していただきたいのはパーツごとのバランス感。
ただクラシカルなだけでなく、過度な装飾にならないようにうまくバランスがとられています。
左の方のジャケットはアシンメトリーな留め方、さらにハイチェストマーク(胸の高い位置でのボタン留め)とデザインが効いている分、寂しげになりがちな裾部分に低めにフラップポケットをつけ、左胸のポケットは生地幅がもっとも広い胸の高めの位置につけられてバランスがとられています。
使用しているボタンも小ぶりで主張しすぎないように考えられています。
右の方のガーデナーコート(中に着ているシャツコート)は逆に布量が多いのでディテールはひとつひとつが大きめ。
ボタンも大きく、パッチポケットは表縫いでステッチを見せてツラがシンプルになりすぎないようにしているのだと思います。
(そもそもカバーオールのディテールなので表縫いにしているというのもあるでしょうが…)
こういったディテールを盛り込む上での引き算の巧さがARCHIVIO(アルキビオ)をブランドたらしめているのだと推察します。
ARCHIVIO J.M.Ribot (アルキビオ J.M.リボット)の商品
プルオーバーシャツ / ARCHIVIO J.M.Ribot(アルキビオ J.M.リボット)
19AW ヴィンテージベルベットカバーオール / J.M.Ribot(J.M.リボット)
19AW ベルベットクラシックブレザージャケット / J.M.Ribot(J.M.リボット)
19AW チェックシャツコート / ARCHIVIO J.M.Ribot(アルキヴィオJ.Mリボット)
16SS 最初期 リネンカバーオールシャツ / ARCHIVIO J.M.Ribot(アルキヴィオ J.M.リボット)
16SS コットンプルオーバーシャツ 46 / J.M.Ribot(J.Mリボット)
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