本日はイザベラステファネリについて。
生地や糸、縫製にいたるまで服づくりのすべてにこだわりつくした、まさに”アルチザン”なブランドです。
それゆえ値段もとんでもないことになっているわけですが…
でもどこか身近に感じる、懐かしさにも似た佇まい。
なんとなく雰囲気があって、なんとなくいい感じがする。
その「なんとなく」には計算に裏打ちされた技術がたんまり詰まっています。
今日はそんなイザベラステファネリの服づくりの奥深さについて探っていきましょう。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ)とは?
そもそも、イザベラステファネリとはどんな人物なのかについて触れていきましょう。
故郷は南イタリア、プーリア。
テイラーの父を持つ彼女は幼いころから身近に服づくりがあったようです。
その後イタリアはマルケ州中西部の街ウルピーノにて学生時代を過ごし、ファッションを学びました。
ウルピーノは多くの文化遺産がのこる芸術の街として有名ですね。
卒業後はミラノに移り、演劇のための衣装やプライベートカスタマーのための衣装製作をして技術を磨きます。
その後もイザベラはさまざまなブランドで服づくりをしてきました。
Carol Christian Poellではヘッドテーラーを4~5年間務めたり、マハリシというブランドのデザイナーを経験したり、ニューヨークにてArtful Dodgerというアーティストのためにフリーランスのデザイナーをしたり。
Rick owensの毛芯仕立てのテーラードジャケットやコートのデザインやパターン開発を行ったり、Boris Bidjan Saberiのジャケットやコートの開発を手がけたりと持てる技術をさらに発展させました。
これらの服づくりの中で、彼女は父親の存在、テーラーとしての自分、絵画やアート、幼いころの原風景などが自分に大きな影響を与えているのだと気づきます。
それらを語り伝える必要性を自覚したイザベラは自分自身のブランドをはじめることを決意します。
いろいろな方面から服づくりに関わった彼女が自身のブランドとしてisabella stefanelliをスタートしたのは2016年。
その1st Collectionはレザーバッグオンリーの展開でした。
と導入はこれくらいにして、その後のisabella stefanelliとしてのものづくりに関しては後の章で触れていきたいと思います。
「生地をいかす」服づくり
isabella stefanelliの最大の特徴。
それは生地をいかした服づくりにあります。
「いかす」とは「活かす」と「生かす」。
2種類の「いかす」をそれぞれ見ていきましょう。
生地を活かす
イザベラの服はすべて特殊な生地でできています。
ですがイザベラの服づくりの真髄は特殊な生地を使っていることではなく、パターンメイキングの妙によってその生地が活かされて使われていることにあります。
まずイザベラの生地はほとんどが90cm幅のものばかりです。
その生地をめいっぱい活かそうと思えば、なるべく大きく一枚でとりたい。
なのでイザベラのコートのパターンはすべてではありませんが地の目が横でとられています。
こうすることで身頃の分量はたっぷりとれて縫製箇所も減らすことができます。
さらに裾や袖には生地端の耳(セルビッチ)がくるのでここも縫製処理が必要ありません。
プレミアムな生地を効果的に使いながら服に仕立てる、他のブランドに類を見ないイザベラ独自の服づくりのアプローチといえるでしょう。
生地を生かす
生地を活かしたパターンメイキングの恩恵は効率だけではありません。
生地を大きくとり、縫製箇所を減らすことでコートを着る、というよりも「生地を纏っている感覚」を味わうことができます。
まるで生地が生きているかのように波打ち、揺れるさまは他の洋服にはない感覚を与えてくれます。
特殊な生地をこだわりをもってデザインした上で、その生地に命を吹き込む。
イザベラの服にただならぬ情調を感じるのはそういうところなのかもしれませんね。
「平面」なのに立体的
イザベラのその最高峰の生地を活かすためのパターンについてもう少し深く掘り下げてみましょう。
一見平面的に見えるパターンですが、実はとても計算に裏打ちされた高度で立体的なつくりになっています。
さらに驚くべきは一目みただけでは立体的な構造になっているように見受けられないほど簡素で装飾のないミニマルな洋服に見えること。
逆にいえばテクニカルな洋服に見えないのに値段が高いので生地先行のファブリックブランドと見受けられがちですが、それを可視化させない(消し込む)ほうがより高次元な技術を要求されます。
ハイコンテクストな部分なので多くの人にわかりやすく伝わるものではないかもしれませんがisabella stefanelliの魅力を語る上で欠かせない部分であることは間違いありません。
具体的に例をあげると、もともと彼女が手がけていたCarol Chritian Poellのテーラードジャケットやレザージャケットは実際に腕を通していなくても目に見えて立体的な筒状の袖になっていたり、肩まわりや背中のパターンメイキングがアナトミカルだったりと、一目に立体的かつ構築的な洋服であることがわかりました。
isabella stefanelliの場合は床に平置きしたときにはとても平面的で、これが本当に身体に沿うのか?というような見た目をしていますが、実際に着たときに身体のつくりをよく理解して作られた服だということがわかります。
「着てはじめてわかる」は、言語化して伝えたい私としてはなんとも安っぽいことばになってしまうので悔しさもありますが、isabella stefanelliに関してはその表現も適切に思えてくるほどの感覚的な要素を持っています。
パーツ数も極端に少なく、かつ身体に沿わせて生地の良さを最大限に引き出すデザインにする。
これら相反する要素をひとつの服につめこんで成立させるのは簡単ではありません。
まさに長年培った技術と経験のたまものといえるでしょう。
演繹的な服づくり
イザベラの服づくりを紐解いてきましたが、isabella stefanelliは演繹(えんえき)的な服づくりであることがわかります。
演繹的、とは普遍的な目的をあらかじめ決めてそれにアプローチしていく考え方ですがisabella stefanelliの服づくりも「生地をいかす」ところを目指してさまざまなアプローチをしているように感じます。
後述する生地のデザインに関しても生地をより活かすためですし、立体的なパターンメイキングに関しても同じです。
演繹的、というのは言い換えれば「落としどころ」を探る、いわゆる「売れるデザイン」をつくる作業と正反対ということです。
めざす目的が明確である以上、妥協しないものづくりを選ぶということは果てしないトライアンドエラーを繰り返して完成をめざすわけですね。
店頭に服が並び、商品として目にした後に、どんないきさつを経て作られたかを想像するだけではものづくりの苦労をすべて窺い知ることはできないでしょう。
果てないものづくりへの執心を持ったデザイナーには尊敬の念を抱かずにはいられません。
縫製について
先の章でふれた立体的な仕立てを可能にするのがイザベラの高度な縫製技術です。
強度をとらないといけない箇所と揺れを意識する(強度がそれほど必要ない箇所)で縫製処理を変えることでより布の動きそのままのコートに仕上げることができます。
使われる糸はドイツのMala社製の11番糸。
アルピニストが極限下で使用するタフな糸なので通常の使用では切れることはなく、ハサミやナイフなどでしか切れることはありません。
後述しますが、isabella stefanelliは単にこの糸を使っているからすごいのではなく、この糸を「糸調子をコントロールして使っているからすごい」のです。
糸が丈夫であれば丈夫であるほど生地よりも強度があるので生地を縫った部分からダメージを与えてしまいます。
つまり、ガチガチに縫ってしまうとその縫い目に沿って生地が裂ける可能性があるのです。
isabella stefanelliはこれを解消するために、負荷がかかるシームはすべてハンドステッチで処理しています。
ハンドステッチだと糸調子をコントロールできるので、甘く縫って負荷を抑えたり、生地にゆとりを持たせたりと微調整が可能です。
もちろん通常の縫製より何倍も時間がかかりますが、Mala社の糸を使うのであればこの処理は必須でしょう。
糸と縫製、これら2つの要素が噛み合ってはじめてisabella stefanelliの服が生まれています。
フラットウェルトシーム
isabella stefanelliの縫製は腕や身頃などは折り伏せ縫いという縫い方で作られています。
フラットウェルトシームと称されているようです。
ミシンで二枚の生地を縫い合わせたあと、縫い代をハンドステッチで留めているのですね。
イザベラのアウターは基本的にどのアイテムも裏地がついていないので内側の構造まで丸見えになってしまいます。
つまりハンドステッチも一針一針丁寧に縫わなければいけません。
ただ、この縫製方法で縫うとシームが限りなく薄く、軽く、デザイン的にも目立たなくなるのでクオリティを追求するならもっとも適した縫製方法です。
幸い(?)isabella stefanelliの服は縫製箇所が少ないミニマルなつくり。
ですが彼女ならたとえ縫製箇所が多いパターンだったとしてもこの縫製を選んだにちがいないですね。
ちなみに縫製箇所が少ない、といいましたがハンドの必要がないポケット裏もハンドステッチで縫われています。
kink sakae
前立てなどの生地端は目に見えないステッチでほつれないよう処理されています。
アームホールの内側も。
アームホールは脇下と背中側の生地に特に負荷がかかるので袖のほうの生地をたっぷりめに取り、ハンドステッチでゆとりを作りながら縫製しています。
脇下はパターンをわけて特にゆとりを作っています。
このあたりの処理は手縫いでないとできないことですね。
ただ単に手縫いで手間ひまがかかっているというだけでなく、「着る服」としてのクオリティにも影響しているところが素晴らしいです。
バッグに関しても興味深い縫製処理がなされているのですがこのコラムの文字数がとんでもないことになりそうなので別記事で分けようかな、と思っています。(2021.10.25追記しました)
染色について
isabella stefanelliの生地についてご紹介する前に、染色についてもふれておきましょう。
生地のバリエーションは多いといっても1シーズンに数種類~数十種類。
しかも織られる生地自体には色展開はなく一色のみです。
糸と織り方にこだわって作る生地なので必然的に色を変えて織ったりしづらくなります。
が、そのぶん後染めによってさまざまな色合いを表現し幅をもたせています。
イザベラは”クッキング”と呼んでいるようですが、独自のレシピと染色法で生地を「調理」することで一言で形容できない奥深い色を生地に与えることができます。
特にベジタンのレザーは個体によって全く染まり方が異なります。慎重にテストを重ねイザベラが”クッキング”と呼ぶ独自の配合・染めにより染め上げていきます。一色はレシピに鉄分・ソーダ・レモンの酸が用いられて染色されています。Isabella独自の色合いは黒でもグレイでも、チャコールでもない、革や染料の特性が最大限に活かされた絶妙な色合いへと仕上がっています。また染色後から仕上げまでに1週間ほどの期間を要します。
染料や触媒については以下のとおり。
染料
- brazilwood(木の枝)
- weld(木の枝)
- black tea(茶葉)
- greentea(茶葉)
- madder(マダー)
媒染成分
- iron(鉄分)
- soda(ソーダ)
- citric acid(レモン果汁)
- tannic acid(タンニン酸)
これらを組み合わせ、配合の割合を研究し生み出される色味はベージュともカーキともブラウンとも黒ともチャコールともいえない不思議な色。
光に強く当たったときにだけほんとうの色味が顔を覗かせる、なんとも高次元な色づくりですね。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ)の生地たち
さあ、ようやく生地について。
isabella stefanelliにはたくさんの種類の生地があります。
興味深いのはその生地たちはすべて、世界中の特殊な機屋(はたや)がisabella stefanellinのために特別に織った生地だということ。
そんなスペシャルな生地の一部をご紹介しましょう。
生地を見てもらえるよう、説明は少なめでいきたいと思います。
D1
brownandseedling
イタリアの職人が手機織機で手がけている生地。
D2
brownandseedling
同じくイタリアの職人が手機織機で手がけている生地です。
S2
S3
絹、麻、綿の混紡糸を4色に染め分けて千鳥格子に織りあげています。
S4
brownandseedling
シルクリネンのツイード地をブロックで組成を変えて織っています。
S5
brownandseedling
コットンリネン地。水溶性の糸を混ぜて織られており、その糸を溶かすことで独特の織り柄を表現しています。
T3
T4
ウールラミー地。
スクラッチのようなランダムな綾の表情と均一な方眼の格子がひとつの生地に。
MS1
Molloy&sons社の生地。品番のMSは頭文字ですね。
MS2
FM2
Flax Mill Textiles社の生地。
こちらも頭文字から生地名がとられています。
Flax Mill Textiles社はアイリッシュリネンの手機生地で有名ですね。
hunt
2019SSごろから生地にも名前がつくようになりました。
こちらはmoon社のメリノウール地。名前は親和性の高いハンティングカルチャーから由来します。
fox
こちらもmoon社。シェットランドウールです。
この名前もハンティングからでしょうか。
bark
HUES
「樹皮」をあらわすbarkが由来。
Bristol Weaving Mill社の協力のもと作られた生地です。
アイリッシュウール・リネン・ヘンプ・コットンを使用し不規則な織り柄を形成しています。
普遍的かつコンセプチュアル
ここまでisabella stefanelliのものづくりに対するさまざまなこだわりを見てきましたが、これだけ普遍的なものづくりをしているにもかかわらず、毎シーズンのテーマは設けられているところも特筆すべきポイントです。
シーズンごとでコンセプチュアルなものづくりをしていくと、シーズン性というものが前に打ち出されすぎて普遍性が失われたりすることもあります。
が、isabella stefanelliのテーマは普遍的なのにコンセプチュアルでもある、つまり変わらないのに新しさがあるテーマなのです。
そんなIsabella stefanelliの各テーマを紹介しつつ、その後ろにある普遍性にスポットを当てて見てみましょう。
Season Ⅲ “IM-PERFECTION”
2017AWからコレクションテーマが設けられました。
初のテーマが”IM-PERFECTION”。
「不完全」の意味のとおり、手機(てばた)織機やシャトル織機での不完全な風合いや機械織りでの不規則な柄の生地開発をベースとしたコレクションでした。
この考えはシーズンテーマでもありますが、もともとイザベラがずっと思っていることをシーズンテーマにした、という気もしますね。
Season Ⅳ “BREAK”
2018SSのテーマは”BREAK”。
「不完全」から派生したようなテーマですね。
生地もそのテーマを反映していて糸飛びを起こしたような柄や、幾何学的で無秩序な柄がみられました。
Season Ⅴ “2”
「2」という数字がテーマの2018AW。
「2」にはさまざまな対になる要素が含まれています。
「男と女」「右と左」「表と裏」、そして「経糸(たていと)と緯糸(よこいと)」。
それぞれの要素の関係性を見つめ直し、それを形にすることがテーマになっています。
Season Ⅵ “ahnd”
2019SSのテーマである「ahnd」は「hand」のミスタイピングがきっかけで生まれたもの。
単純にミスをミスとしてでなく、その偶然性や意外性をテーマにして思いがけないものが作られることを狙ったのでしょうか。
これも「不完全」を肯定的にとらえるイザベラらしいテーマですね。
Season Ⅶ “crossways”
「交差」「岐路」の意味をもつ2019AWのテーマ”crossways”。
自身が暮らすイギリスに思いをはせたタイトルのようです。
意図してかせずか、これも「2」と親和性の高いことばですね。
ものづくりをしていく中で取り巻く環境が大きく変わったり、けれど見える街の景色は変わらなかったり。
揺れ動く感情をテーマにしてものづくりに昇華したコレクションなのだと思います。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ)のモデル一覧
isabella stefanelli
では、実際にどんなモデルがあるのかを見てみましょう。
Isabella Stefanelliの洋服は特定の人物をイメージして作られており、付属されているタグにはその人物たちをイザベラ自身がどんな風にとらえ、洋服に落とし込んでいるかが記載されています。
イメージ元になった人物は19~20世紀ごろの偉人が多く、モダンとクラシックの混ざり合った混沌の世界を生きた偉人たちはisabella stefanelliの世界観ともよくマッチしています。
本当はたくさん解説したいのですが全部書くと誰が読むねんくらい長くなるので泣く泣くさくっとにしておきます…
では各モデルを見ていきましょう。
AMEDEO(アメデオ)
A&S
イタリア人画家/彫刻家のAmedeo Modigliani(アマデオモディリアーニ)からインスパイアされたモデル。
羽織とテーラードジャケットの中間のようなアウターです。
折り返しラペルはありますが芯もないのでふわっと立たせて着用。
背中のドローコードで絞るとショートガウンのような雰囲気です。
MIRKA(ミルカ)
Georges Moraの妻Mirka Mora(ミルカ モラ)がモデル。
ノーカラーで詰まり気味の襟ぐりでどっぷりとした生地量。
生地は地の目を横向きに使って裾をセルビッチで無縫製に仕立てています。
写真のコートだと普通のグレンチェックの柄に見えますが、これは本来の向きから90°傾けているので柄の作り方がまったく変わってきます。
白のストライプは織るときには緯糸(よこいと)として入れなければなりません。
isabella stefanelliの生地は生地を横づかいする前提で組成が考えられているものが多く、生地から作っているブランドならではの生地とパターンの真の意味での調和を見ることができますね。
PABLO(パブロ)
いわずと知れた画家Pablo Picasso(パブロピカソ)からインスパイアされたモデル。
前身頃のポケットは普通のフラップポケットにみえますが、両玉縁仕様になっています。
織りが独特の縫いにくい生地で玉縁に仕上げるのはかなり難しいと思いますが、さすがの技術ですね。
襟部分は「ハ刺し」で強度をとりつつ柔らかく仕上げてあります。
テーラーのディテールをふんだんに盛り込みつつシンプルに仕立ててあって、isabella stefanelliのクオリティの高さをみることができます。
NINA(ニーナ)
タイトフィットかつ前ふりな袖つけ、テーラードジャケットに近い要素が多いモデルですかね。
首元までノーカラーのように生地があるのでデザイン面ではテーラード感薄めです。
その実1ボタンのつくりなので首元の生地は柔らかく外に広がります。
VIRGINIA(ヴァージニア)
A&S
イギリスの小説家Virginia Woolf(ヴァージニア・ウルフ)がモデル。
ブランドを象徴するシグネチャーモデルですね。
身頃は一枚地。
生地を横使いすることで蹴回しをどっぷりとりつつも縫製箇所を減らして軽く仕立てることができます。
袖つけは身頃と並行についていて、肩まわりの生地が余るように取られています。
このパターンメイキングによってオーバーサイズながら上品なシルエットになっています。
こちらは2nd Collectionの”one piece coat”とよく似ていますね。
もしかするとヴァージニアの原型なのかもしれません。
VITA(ヴィタ)
gullam
イギリスの作家ヴィタ・サックヴィル=ウェストがモデル。
ポケット位置で生地を切り替えて着丈を確保しつつ、デザインもシンプルにしています。
一見平面でとられているようにみえるパターンですが生地のゆとりを計算してパターンニングされており、身体から離れた生地がドレープで揺れ、陰影がつくことで上品な雰囲気に仕上げています。
WILLIAM(ウィリアム)
スタンドカラーのミドルコート。
胸にダーツがとられているのが特徴で、布の流れを生かしつつ身体にも沿うコートとなっています。
ボタンの間隔は広めで主張が少なく、生地をめいっぱいたのしむことができる仕様。
このコートに関しては別記事でしっかりとご紹介しておりますのでぜひ読んでみてください。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ) – 生地とともに生きる
JAMES(ジェームズ)
アイルランド出身の小説家James Joyce(ジェームズ・ジョイス)がモデル。
着丈を長くとるため&胴から下の生地量を大きくするため胸下でパターンが切り替えられています。
ダブルのボタンはすべて留めてもよし、トレンチの襟のように着てもよし、すべて開けて背中のレザーストラップでしばってもよしと自由な着こなしが可能です。
BILLIE(ビリー)
ジャズシンガーBillie Holiday(ビリーホリデイ)からインスパイアされたモデル。
ノーカラーのコートでボタン位置やポケット位置は全体的に高め。
Aラインなシルエットながらドロップ気味のショルダーでなんとも不思議なつくりです。
ISAMBARD(イザンバード)
19世紀初頭のイギリスを代表するエンジニアであるIsambard Brunel(イザンバードブルネル)からインスパイアされたモデル。
ジャケットとコートがあるようですね。
パッチポケットの生地量を多めにとることで腰回りからのボリュームを感じる立体的なシルエットに仕上げています。胴部分でシームをとり、裾の緩やかなシルエットのための分量を確保しています。
ラウンドした裾の柔らかい表情もハンドワークで仕上げています。どうやっているのかぜんぜんわかりません。
EDITH(エディス)
ISADORA(イザドラ)
ボックスタイプのジャケット。
身頃はとてもシンプルですがショルダーシームとアームホールのパターンのテクニックで服を立体的に仕上げています。
ANDRE(アンドレ)
A&S
ダブル仕様の羽織。
身幅はやや広、くらいですが肩傾斜と肩線の落ち具合は生地が肩にそのまま乗る感覚をたのしむことができます。
GEORGIA(ジョージア)
A&S
ラグランスリーブのコート。
急な肩傾斜はヴァージニアに近いですね。
袖丈は短めでかなりドロップショルダー気味に着用するコートです。
女性らしい柔らかな雰囲気で、前開きではありますがワンピースのようなシルエットです。
CARMEN(カルメン)
A&S
がっつりと空いたバックネックとおおぶりな身頃が特徴。
着物のように首のうしろに余白ができ、そこを中心にドレープが生まれます。
身頃がたっぷりとられているため肩はドロップ気味に。
その分袖丈は短くなっています。
CLAUDE(クロード)
プルオーバー型。
ヴァージニアと同じく肩線を大きな傾斜でとり、袖は真横に向くようつけられています。
そうすることで肩に生地が乗り、あまった生地がドレープを生み出すことで一枚で着用してもさまになるように計算されています。
JEROME(ジェローム)
2019AWからリリースされたシャツカバーオール型。
大きくとられた身頃と各パーツの耳使いでとても軽いつくりになっています。
背中側は細やかなプリーツでボリュームを確保、動きがないときはカバーオールのツラ感をキープして、過分量を見せないつくりになっています。
こちらのJeromeは別記事で詳しくご紹介しております。
19AW “Jerome” カバーオールジャケット / isabella stefanelli(イザベラステファネリ)
VINCENT(ヴィンセント)
画家Vincent van Gogh(ヴィンセントヴァンゴッホ)がモデル。
こちらはSeason Ⅵ(2019SS)から登場。
襟がタイのようになっていて結んで着用することもできます。
端処理がハンドで地の目に沿って見えないように縫われているので薄く軽く仕上がります。
AUDREY(オードリー)
Audrey Hepburn(オードリーヘップバーン)からインスパイアされたモデル。
Season Ⅵ(2019SS)から登場したモデルです。
背中のギャザーとAラインになるよう上部にかたよってボタンが取られているのが特徴です。
…そのほかANDY(アンディ)、A.B.、EDWARD(エドワード)、TED(テッド)などいろいろなモデルがありますがすべてはご紹介できないので興味のある方はぜひ調べてみてください。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ)のバッグ
洋服の話題からは少し離れますがバッグについても触れておきましょう。
isabella stefanelliというブランドはバッグをリリースするところから始まりました。
後述するステッチングやパターンメイキングは洋服にも通じるところがあり、イザベラの意匠を紐解く上でよい資料になるかと思います。
いくつかのモデルを見ながらご紹介していきましょう。
革について
イタリアのトスカーナにある名門タンナーConceria800(コンチェリアオットチェント)のヴァケッタレザーが使用されています。
コシがありつつ非常に柔らかいベジタブルタンニンカーフにはオイルをしっかりと入れてあり、おそらく天然染色の際に水どおしされているので自然にできたシワ感と部分的に硬さの表情が異なる風合いを出しているのだと思います。
またショルダーストラップには英国のタンナーより調達されたヌメのカウハイドが用いられています。
染色に関しても徹底しており、オークの実を煮出した際に出る最初の濃い色素に鉄分を混ぜたものを用いてオーバーダイします。
特にベジタンのレザーは個体によって染色の風合いが異なるので、慎重に染色を施しているようです。
その後3日間ほどかけてシェイプを作りながら乾燥させ、仕上げの加工をおこないます。
ヴィネガー(酢)によるトリートメントを施し、オイルを加えて栄養とソフトな質感を与えます。
この染色の工程で一枚あたちおおよそ1週間ほどかかるようで、そのこだわりが窺い知れます。
ステッチについて
isabella stefanelliのバッグは基本的にハンドステッチで作られています。
バッグのステッチをハンドステッチにしている、と言うとエルメスのようなラグジュアリーなハンドクラフトを想像してしまいますがイザベラはむしろ真逆な荒いステッチングです。
これは単にブランドの世界観を表現するためだけではなく、構造上にもメリットがあるのでそうしてあるのではないかと思います。
バッグの底面に一番荷物の負荷がかかる位置はステッチの間隔を狭めてその部分を補強したり、ショルダー紐がつけられる位置の周りはよりステッチを細かくして重点的に補強したりと、ハンドステッチではミシンではできない補強方法が可能です。
ただ、わざわざハンドでステッチの調子を変えながら縫い上げるというのは技術と手間がかなり必要なので普通は選ばない縫製方法だと思います。
このあたりも洋服のつくりに通じるところがありますね。
CAMERA(カメラ)
シーズン4で初登場したモデル。
カメラを携帯するイメージで作られたBagでいわゆるカメラバッグを彷彿とさせるスクエアのフォルムは用途を選ばず使えそうです。
SNARE(スネア)
こちらもシーズン4からリリース。
円形でマチは薄く、まさに名前のとおりスネアを入れるのにちょうどいいフォルムとサイズです。
スネアバッグでありながらショルダーを2本つけてバックパックにしてあるところもユニークですね。
DRUM(ドラム)
先ほどのスネアと同じコンセプトで作られたドラムバッグ。
こちらはマチが大きく、そのマチが垂れるように持つことで他のバッグにはない歪さが感じられてチャーミングですね。
BORSELLO BAG(ボルセッロバッグ)
ボルセッロとは男性のバッグという意味のイタリア語。
イザベラが幼少期に目にした南イタリアの伝統的なショルダーバックがデザインのベースになっています。
特徴はバッグの閉じ方。
ジップなどのクロージャーをつけず革を丸めてバックを閉じる原始的なつくりで革やフォルムの雰囲気にマッチしたディテールになっています。
SCHOOL BAG(スクールバッグ)
インスピレーションはイザベラ自身のルーツにもなっている学校指定のショルダーバッグ。
シチリアを始めとする南イタリアではこのようなバッグが標準で学校指定のカバンになっているようですね。
教科書などがちょうど入るスクエアタイプで、日常づかいにも使いやすいバッグではないでしょうか。
BUCKET BAG(バケットバッグ)
THEミニマル、といった印象のバッグ。
BROSELLO BAGやSCHOOL BAGの要素をさらに削ぎ落としたような最小限の要素で構築されたバッグです。
まとめ
isabella stefanelliはその唯一無二な生地にまず目がいきがちですが、その生地をより活かすための立体的なパターンメイキング、縫製処理、染めという経験に裏打ちされた技術があってこそ。
見て、触れて、着ることで理解できる「感性」でとらえる服だと思います。
けれど商業的な展開をしないブランドなので気軽に触れる機会が少ないのも事実。
言語化すると陳腐になる部分もあるのかもしれませんが、このコラムが興味をもつきっかけになってくれればとても嬉しいです。
isabella stefanelli(イザベラステファネリ)のお買取について
D’arteでは、アルチザンブランドの買取をおこなっております。
思い入れがあるけれど着ていない、使っていないお洋服などございましたら一度メールにてご相談くださいませ。
このコラムに辿りついて読んでくださった貴方の持ち物に興味があります。
tekuhomme@darte.jp
ぜひこちらまで、ご連絡くださいませ。