今日はNorwegian Rain(ノルウィージャンレイン)は街着としてのひとつの解と言ってもいいのではないか、という考察を。
なぜそう考えるに値するか、どんなブランドなのか、どんな服作りをしているのかに触れながら核心に迫っていきましょう。
Norwegian Rain(ノルウェージャンレイン)について
ハニカム
2009年に誕生したノルウェーのベルゲン発のレインウェアブランド。
Alexander Helle(アレキサンダーヘレ)(以下アレックス)とT-MICHAEL(Tマイケル)の二人によって発足しました。
本格的に日本展開が始まったのは2014年秋冬シーズンくらいから。
ベルゲンは山々に囲まれていて、そこに雲が留まりやすいために年間に240日間も雨が降るノルウェーでもっとも降水量の多い街。
そんな街でNorwegian Rainは生まれました。
これだけ聴くと「あくまでレインウェア」なのですがNorwegian Rainのクリエイションはそこではとどまりません。
ここからはNorwegian Rainができた経緯と、ブランドを運営している独自のチーム形成のしかたについて触れていきます。
レインウェアとテーラリングの融合
Norwegian RainがスタートするきっかけはアレックスがTマイケルのアトリエを訪れたことから。
Tマイケルはベルゲンに自身のアトリエを持っていて、そこをアレックスが訪ねレインコートのブランドを一緒にやろうと持ちかけました。
が、レインコートにネガティブなイメージを持っていたTマイケルははじめは断ったようです。
チープなイメージが拭えないレインコートは彼のものづくりと相容れないと難色を示したTマイケルでしたが「テーラリングを軸としたチープではないレインコートをつくろう」というアレックスの提案を受け、ブランドがスタートすることになりました。
そんな二人のことについて軽くご紹介を。
Alexander Helle(アレクサンダーヘレ)
Fashion Like Me
ビジネスを専攻していたアレクサンダーヘレ(アレックス)は、ヨーロッパ屈指のビジネススクール、ボッコーニ大学での研究交流の際に気候から身を守ることの必要性について修士号を取得。
彼のその理念がNorwegian Rainのベースになっています。
T-MICHAEL(Tマイケル)
Scandinavian Traveler
アフリカ・ガーナの生まれでノルウェーに渡りビスポークを学び、現在はノルウェーのベルゲンを拠点に活動しているデザイナー。
自身のブランド「T-MICHAEL」だけでなく、東京神田の呉服店「Y&SONS」とともに製作した「T-KIMONO」など、スーツ文化の継承にさまざまな角度からアプローチしています。
Norwegian Rainのフロントマンとしては彼ら二人が取り沙汰されることが多いですが、彼ら以外にもブランドの重要な役割を担っているメンバーチームがいます。
そしてそのチームはノルウェー独自の「文化」によって形成されている、ブランドとして非常に興味深い成り立ちをしています。
文化によって形成されたチーム
ノルウェーにはDugnad(ドゥーグナード)という「共同体で行う助け合い」を意味する文化があります。
同じマンション内の清掃などを自発的、ボランティア的に行う意味合いもあるようですが、Norwegian RainのチームはこのDugnadによって形成されているようです。
すべての人に利益をもたらす共通の目標に向かって自発的に取り組む、というビジネス面以外での相互信頼があるのですね。
ルックの撮影はBent ReneSynnevåg、タグなどはAntiとGrandpeopleというノルウェーのデザインアトリエが担当しています。
nobent
Norwegian Rain
また、Norwegian Rainをワールドワイドに展開すべく、Wesley Swolfs(ウェスリースウォルフス)がコマーシャルディレクターとして携わっています。
彼はノルウェー出身ではありませんが彼も同じ信念のもと相互扶助の協力体制を築いています。
都会的と機能的のバランス
Norwegian Rainが目指すのは機能とデザインのバランスの取れた共存。
機能に偏りすぎてアウトドアウェアになってしまわないように、ただデザイン性を強めすぎてコンセプトを崩してしまわないように…
このバランス感がほんとうに難しく、それぞれが共存することではじめて「新しいレインコート」が成立します。
さらにもう一つ、「トラディショナル」と「コンテンポラリー」のエッセンスの中和もコンセプトになっています。
トラディショナルなジャケットをモダナイズしたり、スポーティなど現代的な要素を加えてみたり。
いろいろな要素のバランスを取りながら新しいモノを生み出していく感覚はどのデザイナーでもできることではありません。
デザインの哲学とそれを可能にするセンスと技術。
すべてが合わさってNorwegian Rainはできているのですね。
また、Norwegian Rainの理念として、「社会とつながって貢献すること」を掲げています。
リサイクルポリエステルを使用したり、生地をつくる際の工程において可能な限りのエネルギー消費を抑えたり。
Norwegian Rainはレインウェアブランドを謳ってはいますが、ほんとうに目指しているのは「毎日いつでも着られる機能服」
毎日着てほしい服だからこそ社会への貢献も考えたものづくりを徹底しているのでしょう。
Norwegian Rain(ノルウィージャンレイン)の生地
Norwegian Rainの機能性とアーバンさを語る上で生地使いは特筆すべきポイントです。
ウォータープルーフ100%のリサイクルポリエステル地となっていますが、表面はウールのコート生地のように手ざわりに織り感が感じられるような凹凸のある風合いになっています。
一目には機能素材に思えないような生地ですがこの生地は三層構造になっており、表層以外の層でも機能を補うことで表にハイテク感を出さないようにしてあります。
リサイクルポリエステルを使用したエコロジーな生地でありながら表情は高級感があって、雨具とわからないツラになっていますね。
この特殊な生地は日本メーカーのもの。
ヘリンボーン地だけでなく、平織やネップ感のある生地などその種類も多岐にわたります。
撥水性のアウターシェルと、内側にラミネートされたハイテクメンブレン、サテンの裏地の3層で構成されています。
裏地のサテン地は内側の機能的なディテールを隠す目的も担っています。
構築的な仕立ての技術
Permanent Style
ここまで街着と機能性のバランスについて見てきましたが、これを可能にしているのがTマイケルの持つテーラリングの知識とセンスです。
レインコートという、必然的にアウターになるアイテムを作る以上、肩まわりの構造や生地量の確保など着用に支障をきたさない構築的な技術がなければものすごく着にくいコートができてしまいます。
Norwegian Rainのテーラリングでいえば、例えば肩まわりですが中にツイードのような厚手のジャケットを着込んでも問題なく着用できるように立体的に、かつパッドなど肩を形作るものは使わず薄く仕立てられています。
背面の運動量の確保として効果的なプリーツを使ったり蹴回しをゆったり取るなどの工夫がなされています。
また不必要な生地量を押さえるためベルト仕様にしてシルエットとドレープの可動域を絞れるようになっています。
それでいてスマートに見えるシルエットの収まり、フォーマルにもカジュアルにも振れる幅を持たせたデザイン、と街着としてのポイントを完全に押さえてあります。
Norwegian Rainが機能性だけの服ではないことがよくわかりますね。
Norwegian Rain(ノルウィージャンレイン)のディテール
Norwegian Rainにはさまざまな機能的なディテールがあります。
どれもが装飾しすぎず、かつレインウェアとしてのクオリティを高めるものばかりです。
いくつかご紹介しましょう。
Water Tunnel(ウォータートンネル)
前立てにつけられた返しのようなひだ。
Norwegian Rainではウォータートンネルと呼んでいます。
横からの雨の侵入を防ぐディテールですね。
北海の油田で働く人の作業着から着想をえたアイデアのようで、多くのコートに採用されているディテールです。
Storm Flap(ストームフラップ)
フードには首元を覆うパーツが付属します。
内側のボタン位置でゆとりを調節可能で、必要ない場合は取り外すこともできます。
首の部分にはカシミアの生地を当てて暖かくなるように、裏地にはサテンを使用して袖通しをよくしています。
機能服において見過ごされがちな首元ですが、アフガンフードで雨風をしのぎ、中はカシミヤで保温性を高める。
とても合理的で、それでいて装飾しすぎないシンプルなデザインです。
Penguin Hood(ペンギンフード)
jugem
サイドの視界を確保するために帽子のツバのように上部分だけが跳ねたようなつくりになっています。
ツバの部分には芯が入っているので雨の雫が落ちてきてもしっかりと横に逃す役割を果たしてくれます。
フード後部には格納機能もついていて、使わないときはバタつかないように留めておくこともできます。
BAYCREWS
アイルミネ
留めるとこんな感じ。
Norwegian Rain(ノルウィージャンレイン)のモデル一覧
ここまでNorwegian Rainについていろいろと見てきましたが、実際にどんなモデルがあるのかについても見てみましょう。
Norwegian Rainのモデルは「CLASSIC」「UTILITARIAN」「LAB」の3ラインに分かれます。
「CLASSIC」はトラディショナルなモデル、「UTILITARIAN」はより実用性を重視したモデル、「LAB」は実験的で革新的なモデル、といった感じでしょうか。
m_moriabc(メモリア)のa,b,cの考えに近いものがありますね。
サイズに関してはPETITE、MINUS、PLUS、LARGEとサイズ展開があるモデルも。
またHOMME、FEMMEで分かれているモデルもあります。
では、各ラインごとにどんなモデルがあるのかみていきましょう。
CLASSIC
SINGLE BREASTED(シングルブレステッド)
定番モデル。
ステンカラーコートにフードがついた仕様で、シルエットも直線的です。
ウエストベルトがつくのが特徴。
DOUBLE BREASTED(ダブルブレステッド)
シングルブレステッドのダブル仕様。
ダブル、といってもシングルのステンカラーに二重の前たてがついたようなディテールになっています。
一番上のボタンを開けて着るとアシンメトリーのダブルブレストのような見た目に。
WALKER(ウォーカー)
がっつりステンカラーコート。
写真ではフードは取られていますが着脱可能フードがついています。
T WALKER REVERSIBLE(ティーウォーカーリバーシブル)
Tマイケルの「T」のイニシャルが冠されたモデルのWALKER。
前立てが両側とも比翼仕様になっていて、ボタン留めの部分をはさみこむような作り。
リバーシブルですがどちらも同じツラになるよう工夫がされています。
GENEVE(ジュネーブ)
都市名がつけられたモデル。
カラーが大きめで開けて着用するとより街着として使いやすくなります。
ポケット位置も前述のモデルよりも下め。
よりシティユースに適したモデルだと思います。
NOIR(ノアール)
NOIR(黒)と冠されたモデル。
由来はなんなのでしょうか?
アシンメトリーなカラーが首元に巻きつくように留められます。
裏側の首が当たる部分が他のモデルよりも大きいので長めにカシミヤ生地が使われています。
袖口もリングとストラップで無段階でのシルエット変更が可能。
写真のようにウエストも絞ることでモードな着こなしが可能なモデルです。
SOHO(ソーホー)
こちらも都市名のモデル。
高め、かつワイドスプレッドなカラーが特徴。
肩から下むきにおりるダーツが立体的に身体に添います。
UTILITARIAN
CAGOULE NR(カグールNR)
初めてのプルオーバータイプ。
首元にはアイスランドのシェアリングウールのボアがあしらわれ、より防寒性を高めたモデルとなっています。
前立て部分も雨風の進入を防ぐために生地がつけられています。
NRはNorwegian Rainの略ですね。
CABANDOUBLE BREASTED(キャバンダブルブレステッド)
ダブルブレストですが首元が大きく空いてしまうことがないよう、トップボタンの位置が高め浅めにつけられています。
一番上まで留めることでノッチドラペルがステンカラーのようになり、雨風を防ぐ仕様としても活用できます。
M65 PARKA(パーカ)
腰元のポケットはカグールのような雰囲気。ですがこちらはコートタイプです。
M65を元ネタとしたフィールドジャケットのコート版、といった感じでしょうか。
M85 HYBRID
ノルウェー軍で着用されていたM85フィールドジャケットをベースに作られたモデル。
大きくとられたフラップポケットが特徴です。
丈はレインコートとして使えるように少し長めにしてありますね。
バッグを持たなくても出歩けるような機能性をもったコートです。
WARM RAIN(ウォームレイン)
普段はチェスターコートのようなスタイル。
ですが突然の雨などにはトップボタンを留めて雨風をしのぐことができます。
LAB
Raincho(レンチョ)
Norwegian Rainといえばこのモデルを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
レインコート+ポンチョでレインチョ。
身体を大きく覆い、中に着る服を問わないポンチョの利点とNorwegian Rainのレインコートが融合し生まれたレインチョは、まさに世のレインウェアをひとつアップデートさせた形といっても過言ではないでしょう。
デザイナーのT-MICHAEL氏自身も愛用していることで知られていますね。
レインチョはスーツの上の着用にはもちろん、袖下がゆったりしているのでオーバーサイズの着こなしの上にも着用可能です。
MOSCOW(モスクワ)
MOSCOW(モスクワ)という名のとおり、Norwegian Rainの中でも特に防寒性に特化したモデル。
マイナス25℃の環境の中で5時間過ごせる性能を持ちつつ、防寒着特有のオーバースペックな見た目を排したシンプルなデザインとなっています。
モスクワについてはこちらで詳しく解説しております。
“MOSCOW” モスクワ ボアフードレインコート / Norwegian Rain(ノルウィージャンレイン)
S-CAPE(エスケープ)
Norwegian Rainの中でも特にユニークなモデル。
ポンチョ、というよりはマントのようなコートです。
前の着丈が長く、自転車など乗り物に乗っているときに膝までしっかりと隠れて雨を防げるようになっています。
袖も格納式になっていて内側に収納可能。
名前はEscapeとケープをかけているんですかね。
GDANSK(グダニスク)
こちらも都市名のシリーズ。
ポーランドの都市ですね。
キルティングの羽織りを重ね着したようなデザインで、肩まわりが着物袖で布を纏うように着ることができます。
PRAGUE(プラハ)
こちらも都市名。
肩まわりから胸元までは肩シームなしでパターンどりされており、胸から下は生地量がいっきに増え、隠しポケットが備え付けられたインバーテッドプリーツ(内ひだ)が左右に配されています。
MARAIS(マレ)
またまた都市名。
フラップポケットとウエストベルトがミリタリーライクな印象ですが、プラハと同じく肩まわりは一枚パターンでミニマルに。
蹴回したっぷりながらも細身なシルエットが街着にも適しています。
RIVE GAUCHE(リヴゴーシュ)
布を大きくまとったようなコート。
一番上のボタンを留めると首元までぐるりと巻きつくように着ることができます。
開けて着ると大きなラペルのコートのような印象に。
まとめ
単なるレインコートとの違いは、天候問わず着られる生地、デザインのクオリティの高さ。
そしてカジュアル着としてもフォーマル着としても着られる仕立ての良さ。
Norwegian Rainこそ、これらを満たす完成されたレインウェアといえるでしょう。
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