みなさんはFEIT(ファイト)というブランドをご存知でしょうか?
シンプルで上質なレザースニーカーを作っているブランド、というイメージがある方が多いと思いますが実際にどのようなつくりなのか、など詳しく知らない方もいるのではないでしょうか。
個人的にはFEITのそのクオリティとものづくりの姿勢はもはやデイリーユースの靴としての領域を超え、「ラグジュアリー」と形容すべき完成度を持っているように感じます。
そんなFEITのものづくりを一緒にみていきましょう。
FEIT(ファイト)のラグジュアリーなものづくり
FEITはオーストラリア出身の兄弟Tull PriceとJose Priceが2005年に設立したハンドメイドなシューズブランドです。
フェイト、と読まれがちですが実はファイトです。「fight」と同じ発音らしいです。
LOUIS VUITTONやGUCCIなど、いわゆるラグジュアリーブランドから多数のスニーカーがリリースされていますが、これらだけをラグジュアリースニーカーとして評価する前に、ぜひこのFEITに目を向けていただきたいです。
ラグジュアリーの定義として、見た目の仕上がりの華美さもそうですが、量産では不可能な生産体制とこだわりや技術に裏打ちされたミニマルなデザインというのもラグジュアリーと形容してもよいのではないでしょうか。
FEITの靴たちは日常使いの靴(ツール)の域をはるかに超えてラグジュアリーの領域にあるように感じます。
それではそんなFEITのこだわりを見てみましょう。
ハンドソーンウェルテッド製法
FEITのシューズは基本的にハンドソーンウェルテッドという製法で作られています。
曲がった針を使用してすくい縫いし、アッパーとインソールを松脂を擦り込んだ麻糸で縫いつけるオーダーメイドの革靴製法ですが、FEITのシューズの生産はすべて香港の数人の職人によって作られています。
そのため、「MADE IN CHINA」と表記が入りますがこれはその選ばれた職人が作っていることの証明というわけですね。
ハンドソーンウェルテッド製法の最大のメリットは、仮にオールソール交換をしても中底がダメージを受けないため、足に馴染んだ中底を温存できること。
しっかりと自分の足裏のかたちに沈んだ中底を使い続けられることは大きなメリットになります。
その上FEITではアッパーの革も基本的にすべて一枚でとられ、かかと部分でハンドソーンで縫製されています。
中底だけでなくアッパーも足のかたちにより馴染みやすくなっているわけですね。
ここまで長く履き続けられるように考えられた製法はスニーカーはおろか、レザーシューズでもなかなか見られないです。
ラスト(木型)にはイタリア・トスカーナに拠点をおく巨匠ヴェルディチオ・パドロン(Verdichio Padrone)が作成したものを使用しています。
環境に配慮した材料選び
FEITの特徴は製靴方法だけではありません。
使われる素材や原料にまでこだわり抜かれています。
一つずつ、見ていきましょう。
ベジタブルタンニング(レザー)
FEITの革はベジタブルタンニン鞣し(なめし)です。
動物の皮をいわゆる「革」にするにあたって「鞣し(なめし)」という工程が必要になりますが、大きく「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」にわかれます。
タンニン鞣しは主に植物由来の成分によって革を作る製法で、クロム鞣しは金属によって革を作ります。
タンニン鞣しの方が時間もコストもかかりますが、日光による色変化や使い込むごとに光沢が出てくるような経年変化が起きやすい特徴があります。
そしてなんといっても環境に与える影響が少ないのも特筆すべきポイントです。
FEITが使用するタンニンの原料は過去2000年にわたって使われてきた伝統的なものです。
1. ヨーロッパ産の栗。
2. アルゼンチン産のケブラコ。
3. ブラジルと南アフリカ産のアカシア。
この3種類を使用することでFEITの独特なカラーと色の深みを出しています。
栗は革に暗い褐色のカラーを与え、ケブラコは革をしなやかにし温かみのある琥珀色を与え、アカシアはローズイエローの色と革のハリを作り出します。
これらのタンニンを使用して鞣した革はイタリアで生産されているようです。
すべて自然由来の素材で持続可能なものづくりをおこなうFEITにとってはまさにうってつけの環境ですね。
コルク(ミッドソール)
FEITのシューズといえばコルクを使用しているイメージが強いのではないでしょうか。
ミッドソールにもコルクを使用し、取り外し可能なインソールとしてもコルクソールが付属しています。
コルクインソールにもサイズ表記がされていて、ちゃんと購入したサイズに合ったものが付属するのも徹底的にこだわり抜かれていますね。
これほどまでにコルクを重用するのにはさまざまな理由があります。
まずは機能面。軽量で耐湿性があるので長時間の着用にも向いています。さらに防カビ性があるので長いスパンで大切に履くこともできます。
また、コルクは着用者の足のかたちに合わせて沈むので履きこむほどに足に馴染むメリットがあります。FEITは通常のインソールと別にコルクインソールが付属しているのでより足のかたちを靴に反映させることができます。
そして何よりコルクが天然の素材であること。これも大きな理由ではないでしょうか。
コルクは何世紀も前から世界中で収穫されてきましたがその手法はものすごく大変でスキルと忍耐が必要だそうです。
コルクはいわゆる材木ではなくコルクガシという木の分厚い樹皮です。その表層を削り出して収穫するわけですが、木に登ってトリミングするように収穫しなければなりません。
しかもコルクは樹齢20年以上のものではないと収穫できず、その後も10年以上経たないと再収穫もできません。
逆にそうやって正しく収穫していればコルクガシは160~200年の間生きることができるようです。
もちろんFEITもこの収穫サイクルにのっとって収穫されたコルクを使用しています。
環境への影響を最小限に抑えながらものづくりをおこなっているんですね。
「昔ながらの自然の材料を使ったものづくり」。そしてそれを持続可能な範囲でおこなっていくことがFEITの理念なのでしょう。
竹(バンブーシャンク)
通常レザーシューズにはシャンクと呼ばれるくつの背骨になる芯材が入っています。
大体は金属かプラスチックであることが多いのですが、FEITは竹のシャンクを使用しています。
竹はとにかく強度に優れ、抗菌・防カビ・防臭の効果があります。
重量に対する強度の比重は鋼と同じくらいといわれており、シャンクとして使用するのにとても合理的な素材であることがわかります。
さらにきちんと間隔をあけて収穫することで植え替えたりすることなくまた再成長するので地球上でもっとも再生可能な資源のひとつともいわれています。
竹は成長スピードが凄まじい、というイメージがあるかと思いますがそれだけではなく他の植物が育ちづらいような土壌でも育つことができるとても強い植物です。
しかも土地を開拓して他の植物が育つ環境にしてしまうというとんでもない力があるようです。
(竹のことを調べていたら面白くて竹のコラムになってしまいそうだったのでこのくらいにしておきます)
他のブランドが使用しないのが不思議なくらいの素材です。
ラバーソール
一般的にゴムソールというと合成ゴムと天然ゴムの2種類に大別されます。
合成ゴムは石油などから作る化合物です。ソールの原料としてはスチレンブタジエンゴムというのがメジャーです。VANSのソールとかはこれだったはずです。
天然ゴムはパラゴムノキ(いわゆるゴムの木)から採取された樹液をもとに生成されます。
FEITはもちろん天然ゴムを使用しています。
樹液の採取は木の樹皮にらせん状の切りこみを入れておこないます。もちろん手作業です。
パラゴムノキは樹齢4~7年の、基準の直径を超えた木から樹液の採取をおこなっているようです。
一つの木あたり20年間採取がおこなわれ、その後は新しい木を植え直すようです。
ソールを1ペア生産しようと思うと20本の木から樹液を採取する必要があるとのことで、手間と材料がものすごくかかっていることがわかりますね。
さらにFEITでは化学物質がはいらない製法にこだわって100%天然ラテックス(ゴムの原料)のラバーソールを開発したようです。
樹液を温水に浸した鋼の型に注ぎ、1時間たつと冷却槽に移されゴムを硬化していきます。この作業は最大24時間かけておこなわれるようです。
そして丸一日乾燥させ、そのあと1週間ゴムソールを冷水に漬け続けます。
こうして作られたゴムソールは軽くて柔軟性のある、プラスチックなどの化学物質を含まないゴムソールになります。
すべて自然に還る、環境に配慮したソールはこのように手間暇をかけてでないと作れないのです。
履き心地と堅牢さの両立
FEITのすべてのモデルのアッパーは一枚革で構成されています。
革は堅牢で強度があるものを使用していますが通常そういった革で仕上げた場合履きづらかったりします。
ただFEITの場合は手縫いで仕上げたあと約10日間ほど蒸すことによって耐久性を保ちながら優れた履き心地を実現しているようです。
そこに一枚革仕様の構造も相まってさらに足に馴染みやすくなります。
前述したコルクミッドソールやインソールも足と靴の一体感をより高めてくれます。
クオリティを守るための少量生産
ここまでFEITの靴づくりに対するこだわりを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
素材の原料や製法にも、靴づくりの製法にもこだわりぬいて一つ一つの工程に途方もない時間をかけて作られているシューズたちはまさにラグジュアリーと形容すべきでしょう。
そしてFEITはそのこだわりを貫きつづけていくため、1品番につき数十足しか作らない少量生産を守っています。
また、そのナンバリングが入る冊子には職人の署名が入ります。
FEIT(ファイト)のモデル一覧
HAND SEWN LOW
もっともオーソドックスなモデル。
スニーカーでありながらワンピースレザーがミニマルさを醸し出すFEITのアイコンシューズです。
HAND SEWN HIGH
HAND SEWN LOWのハイカット仕様。
単にハイカットになっただけでなくシューレースの間隔がアンクル部分だけ変わっていたりとエアジョーダンを彷彿とさせるつくりになっています。
HAND SEWN SLIPPER
こちらも定番の一束。
縫製のステッチがない一枚革で作られたスリッポンはとても上品ですね。
HAND SEWN OXFORD
こちらはオックスフォードのモデル。
スニーカーモデルよりもアッパーが広くミニマルな印象です。
ただほとんど見かけることがないのが難点です…
BIOTRAINER
先述のラバーソールを使用したモデル。
タンやヒールカップにスウェードがあしらわれていたりと、よりスニーカーライクなディテールが見られます。
HAND SEWN LOWなどよりもさらに履き心地と軽さを意識したモデルといえるでしょう。
HIKER
なかなか見かけることが少ないマウンテンブーツのモデル。
HAND SEWN OXFORDと同じくグッドイヤーのコンストラクションが特徴です。
LUGGED RUNNER
HAND SEWNのモデルとBIO TRAINERをミックスしたようなモデル。
ラバーソールをグッドイヤーの製法で縫製し、ヒールソールにはコルクが入っているというミックス具合。
部分部分をみると割と個性的なデザインですが全体で見ると統一されている印象を受けるのが不思議です。
これに関しては履いたことがないので履き心地が気になるところです…
D’arteのFEIT(ファイト)のアイテムたち
HAND SEWN LOW ハンドソーンローカットレザースニーカー 44 / FEIT(ファイト)
HAND SEWN LOW ハンドソーンローカットレザースニーカー 44 / FEIT(ファイト)
HAND SEWN LOW ハンドソーンローカットレザースニーカー ブラック 40 / FEIT(ファイト)
HAND SEWN SLIPPER ハンドソーンレザースリッポン 41 / FEIT(ファイト)
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