本日はTHE INOUE BROTHERS(ザ イノウエブラザーズ)について。
アルパカウールを使用したニットで有名になったブランドですね。
品質の良さももちろんですが、特筆すべき点としてアパレル業界の構造そのものの常識をくつがえしたことがあげられます。
THE INOUE BROTHERSが起こした革命はどのようなものだったのか。
大手から個人店までジャンルを問わず、取扱店舗が増えてきているイノブラ。
単なるニットブランドではない、THE INOUE BROTHERSの魅力と起こした変革について一緒に見ていきましょう。
THE INOUE BROTHERS(ザ イノウエブラザーズ)について
THE INOUE BROTHERS(ザ イノウエブラザーズ)(※通称イノブラ)はデンマーク・コペンハーゲン生まれの日本人兄弟、井上聡(さとる)と清史(きよし)によって2004年に設立されました。ブランド名のとおり井上兄弟によって設立されております。
生産地は南アメリカのペルーやボリビアのアンデス高地であり、そこで生息しているアルパカの繊維(以下、「アルパカウール」)を使ったニットが有名なブランドです。
後述するアルパカウールの特徴も非常に魅力的なのですが、これだけならどこにでもあるブランドと変わらなかったでしょう。イノブラができるまでの背景やできてからのブランドの歩みには品質をこえた想いがあります。
次頁でこの部分について具体的にご紹介していきます。
ブランドの歩み
THE INOUE BROTHERSの生産地であるアンデスの原住民は南アメリカでも一、二を争うほど貧しく、政府や教育機関からの支援・保護も十分ではなかったため、その文化や生活様式が危機に瀕していました。
2000年には、30年以上前から続くアルパカウールの質の低下を受け、ペルー政府によりパコマルカアルパカ研究所という研究機関が設立されています。
パコマルカアルパカ研究所はペルーのプーノ南部にあり、アルパカ放牧地域の中心地です。
この地でアルパカウールの質の低下の原因調査をスタートさせ、その結果質の高いウール生産を確実にするためには、放牧民の生活の質の向上が不可欠であるとの結論に至りました。
生産をおこなう人々の生活とウールの質は密接にむすびついているということですね。
そして2006年、この研究所とパートナーシップを築いたのがTHE INOUE BROTHERSです。
地元の放牧者が自らの生活様式から上手く利益を挙げられるよう援助することを目標として築かれたパートナーシップ、これが業界に革命をもたらすことになります。
もともとパコマルカ研究所はアルパカウールの品質向上ももちろんなのですが、アルパカのサプライチェーン(原材料、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)に関わるすべての人々に恩恵をもたらすことを重要な目的としていました。
そして中でもアンデス高地の過酷な環境下でアルパカ放牧によって生計を立てている人々へ恩恵をもたらすことを最重要視しています。
研究所ときくとただ研究をしているだけに感じますが、放牧産業とその地域、人々をより良くすることに真摯に取り組んでいて、どちらかというと支援団体としての役割が大きいのかもしれませんね。
放牧して育てるだけではなく基本的な毛刈りや選別のやりかたを教えたりもしているようで、クオリティを上げて対価を大きく得られるように手助けもしています。
このほかにも、生産者に不当な労働を強いることのない環境づくりや地球環境に大きな負荷をかけないプロダクトの製造過程を築き上げ、GOTS認証※を得た現地工場でスーピマコットン使ったTシャツやパーカーも生産しています。
※GOTS認証 : 繊維製品を製造加工するための国際基準であり、オーガニックのコットン等の原料から環境的・社会的に配慮した方法で製品をつくるための基準
このような彼らの取り組みは、カシミアと同等の素晴らしい素材をもったアルパカと暮らしているのにもかかわらず、デザインやブランディングができないために貧しさから抜け出せない人たちの生活を少しずつ、確実に改善しアルパカウールの質向上に結びつけています。
たくさんのつながりによってできたTHE INOUE BROTHERSというブランド。
そのつながりはタグやボタンにもデザインとしてあらわれています。
刻まれている拳(こぶし)のマークは、南米で「団結」を意味するマークであり、様々な土着の遺産・文化、また手工業に長けたコミュニティーとの強い絆の象徴でもあります。
ちなみに、つながりを象徴するエピソードとしてTHE INOUE BROTHERSが展開するボリビアストールというストールはベースカラーの指定以外の、どんな色をどんな織にするかは織り手の感覚に一任されている、というものがあります。
他のニットアイテムはペルー生産であるにも関わらず、このストールのみボリビア生産である理由はココにあります。
THE INOUE BROTHERS曰く「ボリビアの人々のDNAに刻まれている配色」らしく、色や柄を一任する作り方は尊敬のあらわれであり、強固なつながりと信頼関係がなければできない生産方法でしょう。
ダイレクトトレードという強み
THE INOUE BROTHERSの歩みを読んでいただいたところで、彼らのビジネスにはもう一つ大きな特徴があります。
それは、一から生産者の人々と苦労を重ねて強い絆、信頼関係を作り上げてきたからこそできた「ダイレクトトレード」です。
ダイレクトトレードとはつまり、仲介業者を挟まないこと。
そうすることで値段を同レベルのアルパカを使用したメゾンブランド商品の約1/4~1/5におさえられています。
ただ、本当に変えたかったのは製品の価格ではなく、アンデスの誇りであり文化であるアルパカ、それを扱う人々の貧困という現状でした。
洋服に限らず大半のものは仲介業者をとおしてショップへ仕入れがなされるため、その分価格販売が高くなっているのが通常です。
アルパカという上質な素材を使用した上、セーターやニットソー、コートやパンツなど多くの型数を圧倒的安価で生産販売しているのがTHE IONUE BROTHERSの強みといえるでしょう。
いわゆるファクトリーブランドのような単なる高品質安価推しではなく、多品番展開も実現できているのはまさに仲介業者を挟まないからこそできることでしょう。
アルパカウールの特徴と魅力
アルパカは南アメリア産ラクダ科の一種。
アルパカの毛の色は遺伝子によって決まり、元々は白やグレー、ブラウン、黒までグラデーション状に36色が存在していました。
しかし、どんな色にも染まる純白の繊維が重宝されるようになり、白いアルパカが優先的に育てられるようになったことから現在では28色にまで減少。染まりにくい濃い色は減少していきました。
染色のしやすさから白い品種のみ育てられるというのは綿花にもいえることですね。
その中でも全体の0.01%(ペルーのアルパカ生息頭数の内)という黒のアルパカ(通称ピュアブラックアルパカ)は希少性が高く、THE INOUE BROTHERSではこのピュアブラックアルパカのコレクションも発表しています。
ピュアブラックアルパカにつけられる特別な黒いタグ。通常は下のような白いタグです。
現在もこの黒いアルパカを増やすべく交配などの努力を重ねているようです。
ちなみにピュアブラックアルパカのマフラーは最初に生えた首のやわらかい毛(ファーストカット)のみを使用するため、生産量が極端に少ないですが、さわり心地は普通のアルパカの比ではありません。(その分値段もしますが…)
これは一度ブリーチをしてから染めるのが通常のアルパカウールであるのに対し、ピュアブラックアルパカはこの工程がないことから、ウールが全く傷まず、油分をたっぷりと含んでいるそのままの状態だからです。
アルパカウールは通常のものでも十分に自然の油分でコーティングされており臭いなどが製品につきづらいのが特長ですが、この黒いアルパカはその特長がより優れています。
また、アルパカウールは柔らかく、アレルギー反応を引き起こすラノリンをほとんど含みません。
ほとんどのニット製品の手ざわりは薬品からくるものですが、イノブラのアルパカは自然由来のウールでこれをやってのけます。
ほかにもストローのように毛の中が空洞になっている独特の空洞構造により、アルパカウールは自然の断熱材の役目を果たし、周辺温度や体温にしたがって熱を閉じこめたり逃したりします。
この特徴は、昼夜の温度変化が激しいアンデス高地に対応するための構造だと考えられています。
加えて、油分やこの空洞構造は含んだ油分も合わさって毛玉になりにくいという効果もあります。
着心地に関してもウール製品とは思えないほどチクチクしません。
THE INOUE BROTHERSのアルパカウールは素肌で着られるほどツルっとしています。
しかも、前述のとおり温度調節機能があるため蒸れにくく臭いもつきづらいため、普段着と外出着の両刀使いができてしまいます。
焼肉など臭いがつきやすいところへ行った後も、風通しの良いところで干してあげるとほぼ臭いがしなくなるというのもより生活にねざした上質な洋服という感じがしますね。
THE INOUE BROTHERSが主に使用するアルパカにRoyal Alpaca(ロイヤルアルパカ)とBaby Alpaca(ベビーアルパカ)があります。
ロイヤルアルパカは繊維が細く、ベビーアルパカよりも強度が劣りますがそのぶん手触りが最高です。
それに対しベビーアルパカはロイヤルアルパカよりも繊維が太く、手触りが劣る分、強度が強く毛玉になりにくいです。
井上兄弟はベビーアルパカのニットを普段着としてガシガシ着てほしいと提案しているようですね。
繊維が太いといっても一般的なウールと比べるとかなり繊細な繊維で、肌あたりがとても良いので「ロイヤルアルパカはこれよりすごいの?」とびっくりするくらいのクオリティです。
そしてそして、どうやらその2種類のアルパカを超えたImperial Alpaca(インペリアルアルパカ)というのも限定で展開しているようです。
ロイヤルアルパカの繊維をさらに細く撰定しクオリティを追求したインペリアルアルパカ。
原毛の細さはおよそ16マイクロメートル(平均的な髪の毛の1/5ほど)となり、ハイクラスのカシミアと同等の繊維の細さになります。
これだけの上質な素材を追求できるのも生産地と二人三脚で歩んできた歴史があるからできたことでしょうね。
長く着るためのメンテナンス
これだけの想いがつまって作られたアルパカニット。
綺麗に長く着るためのメンテナンスについてもご紹介しておきましょう。
やわらかく上質な素材であるアルパカ、取り扱いも繊細なのかと考えてしまいますが実はとてもラクです。
繊細な生地は洗濯にも気をつかいがちですがTHE INOUE BROTHERSのアルパカニットは普通に洗濯機で洗うことができます。
ただできれば手洗いでぬるま湯を使って洗剤を入れずに洗うことをおすすめします。
アルパカウールは油分でコーティングされているので洗濯の際に洗剤は必要なく、ぬるま湯で汚れが浮いてきます。
干すときは平置きか丸い棒にくるんとかけて干せば伸びてしまうこともありません。
洗濯の頻度も1シーズンに一回で十分。ちなみに井上兄弟は年1回程度らしいです。
このような日々のメンテナンスのしやすさに加えて、THE INOUE BROTHERSとしてさらに洋服を長持ちさせる工夫をしてくれています。
それがこちらの楠(くすのき)のタグ。
5年ほど前は付いてこなかったのですが、最近はどのアイテムにも基本的に楠を使ったタグが付いてきます。
これは古くから「虫よけの木」として知られる楠を使った、天然の防虫・消臭効果を利用した自然派防虫剤です。
長く大切に着てもらいたい、という想いがこめられた素晴らしいアイデアですね。
そのほか、肩や袖など織りの切り替え部分にあるレザーパッチはブランドのアイコンであるとともに、生地の補強という役割も兼ねています。壊れやすい部分を補強するパーツですね。
このレザーパッチは鹿革であるため洗濯をしても問題ありません。
こういったところのデザインの辻褄があっているのも着る人のことを真に想っているからこそでしょうね。
ものを作る過程の人も幸せに
「スタイルは大量生産できない」、「ファッションの力で世界を変える」これを体現している数少ない本物のブランドの一つ、それがTHE INOUE BROTHERSです。
その哲学は彼らの本を読むことでも窺い知ることができます。
「僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方」
それぞれのプロジェクトにおいて、品質とデザインをとおして責任ある生産方法に対する関心を世の中に生み出すこと。それが彼らの最大の目標です。
日本の繊細さと北欧のシンプルさへの愛を基本として生まれたデザイン・アートスタジオを “Scandinasian”デザインと彼らは呼んでいます。
着る人だけでなく、ものを作る過程の人々も幸せにしていくTHE INOUE BROTHERSのものづくりについて知っていただければ幸いです。
THE INOUE BROTHERSのアイテムたち
当店にあるTHE INOUE BROTHERSのアイテムをご紹介します。
(中には売れてしまったものもありますがご了承くださませ)
アルパカウールシャツ / the inoue brothers(ザ イノウエ ブラザーズ)
アルパカウールイージーパンツ / the inoue brothers(ザ イノウエブラザーズ)
アルパカシルクストール / the inoue brothers(イノウエブラザーズ)
唐毛アルパカストールブランケット / the inoue brothers(ザ イノウエブラザーズ)
THE INOUE BROTHERS(ザ イノウエブラザーズ)のお買取について
D’arteでは、アルチザンブランドの買取をおこなっております。
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